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REPORT
通信と放送の融合について 
      郵政省への殴り書き
2000.8 中村伊知哉
5年以上まえから同じことばかり言っているので、アイツまたあれかと思われるかもしれませんが、整理のため。

1 問題への姿勢
  メディア実態としての融合のメリットを国益レベルで議論することが欠けている。メリットを示した上で、法律マターに落とし込むという手順が必要だろう。
  通例、融合問題は、通信と放送の最大公約数をどう扱うかが論点とされているが、最小公倍数の問題に間口を広げ、メディア全体の発達をどう促進するかという観点から切り込むべきではないか。

放送は通信の一部門であり、それを「法的に」融合させるというのは、放送の特別扱いを薄めるということ。特段クリエイティビティな面はなく、また、法律論で言えば現状で困ることもない。議論の大半は通信事業の一種二種区分撤廃論と同じく幼稚で、各種業法の統合を論じるのと同じく「可能だがメリットは薄い」話。責任官庁たる郵政省は常に受け身となるが、逆に世論にあらがうほどの価値もない。
逆に、郵政省側から融合のメリットを示してきていないことが手詰まり感を招いているように見受ける。



2 融合の本質

  放送の本質はコンテンツ(テレビ番組)。通信の本質はつなぐこと(インターネット)。したがって、融合の本質は「テレビ番組をインターネットで流通させること」。
  全国で時々刻々と生み出される大量の映像コンテンツを各種ネットワークで流通させることであり、推進すべき政策課題と位置づけるべきものとなる。

特に日本の場合、コンテンツにおけるテレビの位置づけが大きく重いということから議論をスタートさせる必要がある。映像ソフト制作の97.5%をテレビ番組が占め、競争力のあるコンテンツもアニメ・ゲームというテレビ周りのものだという産業実態に加え、国民意識にテレビが占める重みも他の先進国に類をみない。放送に対する規制が緩く(殊にコンテンツ無規制という先進的?制度)、衛星出現まで民放に対する政府の管理が実質的になかったこともこの要因。
この点、アメリカのコンテンツはハリウッド偏重で、制度的に誘導されてきた面もあって、放送はいわばネットワーク業に近い。通信と放送の融合と言っても、CATVでインターネットを提供するといった伝送路の結合問題に収束しがちである。

なお、メディアの構成要素をネットワーク、コンテンツ、プラットフォーム(端末)に分類した場合、90年代前半それぞれの分野内部でデジタル融合が進展した動きは、90年代後半から、それぞれの要素どうしをつなぐという段階に歩を進めている。ネットワークとコンテンツの融合(通信と放送の融合)もその一つだが、ネットワークとプラットフォームをつなぐ「インターネットの普及」に加え、コンテンツとプラットフォームをつなぐ「デジタルテレビ」も重要な課題。テレビ番組をコンピュータで使えるようにするというのが本質的な意味である。(アメリカはデジタルテレビの実行段階でその意識が希薄化したために失敗している。コンテンツをハリウッドと読み換えるから、高画質大画面が欲しくなる。)
 
3 政策課題
  すると課題は明確となる。以下の2点。
 @ テレビ番組のデジタル化
 A 高速インターネットの整備
  要するにハード・ソフト双方のメディア政策の本丸を推進することイコール融合問題の解決ということ。法律問題としては、このために法整備が必要ならやりましょう、という態度でよいと考える。

@ テレビ番組のデジタル化のためには、
  ・デジタル番組アーカイブ整備
  ・著作権処理ルール確立
  などの施策が求められる。中央、ローカルを問わず、映像を文化資産として蓄積していくことは重要な施策となる。

フランスではINA(国立視聴覚研究所)が放送法に基づいて巨大な放送番組ライブラリーを整備しているが、私がパリに滞在していた94年当時、すでにインターネットでの国際流通に備えるとの明確な意識の下で国家映像資産をデジタル化していたことに驚愕した記憶がある。パリから東京に何度も報告したが東京からの反応は一度もなかった。

A 高速インターネットの整備は、インフラ政策の推進そのもの。
  光ファイバー整備促進や電波のデジタル化ということになる。ただし、通信網だけでなく、CATVや地上波といった放送の伝送路も含めたネットワーク高度化という視点が重要。ここからインパクトのある施策を打ち出せるかどうかが問われる。

なお、私が協力しているプロジェクトの一つに、セガのeCSがある。放送事業者やプロダクションとの連携のもと、映像コンテンツをライブラリー化してゲームセンターに置き、それらをギガ級の光ファイバーでつないでアプリケーション開発を進めるという実験。8月6日まで日経「夢テク」にて実施、その後は台場、渋谷、池袋にて実施。今秋から全国展開を企画。参考事例まで。
   

4 伝送路統合法の是非
  上記より踏み込んだ施策としては、
 @ 放送のハード・ソフト分離
 A 帯域免許とオークション
 が挙げられる。これを推進するか否かが融合の度合いを左右すると考える。

@ CATVのハード・ソフト分離は、有線の通信・放送統合網の整備を促進するものとして位置づけることができる。NTTを含む通信事業者は有線テレビの需要を取り込むことによって光ファイバ整備のインセンティブを得ることになる。実施すべきと考える。
問題は地上波放送のハード・ソフト分離だが、電波資源を最大限有効に活用するためこれも実施すべきと考える。なお、ヨーロッパでは分離が主流だが、それはハード政策というよりソフト政策の色彩が濃い。放送はコンテンツ事業という明確な位置づけのもと、ネットワークの技術や種類に左右されることなくコンテンツ制作に集中すべしという考えが基本にある。

A 帯域免許とオークションは、電波の利用を柔軟にするとともに、行政の裁量を廃して経済原則による利用を確保する手段として注目される。伝送路の利用方法を制度として固定するよりも、急激に高度化する送受信側の端末機能に委ねた方がよいという論調は今後も高まると予測される。
今次の放送デジタル化を強力に実施し、アナログ停波後の周波数帯をどう利用するか、その議論の際に一気にカタをつけるべき案件と考える。これがここ10年のインフラ政策の最大課題と考える。

なお、放送コンテンツと通信ネットワークの結合の逆に、通信コンテンツを放送ネットワークで流すという「逆融合」もある。ウェブのコンテンツをBSデジタルで流す、といった動き。これはウェブのコンテンツが爆発的に増大しているため重要度を増してきている。
ここで問題となるのは、通信も放送も(電話もテレビも)「伝送路はみなインターネット化すべきかどうか」という点。これは世界的にみてもまだ意見が分かれるところ。実施段階では、TCP/IPを基準として強制しなくとも、方式フリーにしてしまえば端末側のアプリケーションによって無事制御されるようになっている可能性もある。
いずれにしろこれは融合論をやる場合いま避けられない課題。全インターネット化が技術的・経済的に正しいとしても、法律的に伝送路統合法が必要かというと、必ずしもそうならないが、この問題に立ち入らずに法律の是非をやろうとしても答えが出ない感じがする。これを問うと長期戦になるが。
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